本研究の最終年度に当たる平成24年度には、摂政時代の風俗について情報整理と、22-23年度の研究のまとめを中心に行った。主な研究成果は次の3つである。まず、ジェイン・オースティン『エマ』(1816)に登場する新興成金のエルトン氏はその素性が一切明かされないものの、オースティンの時代に散見された、植民地で奴隷を搾取して富を作り、本国に引退し、悠々自適の生活を送り、奴隷制反対論者に転向する有閑紳士のパロディであり、オースティンの奴隷制への反対が表明されているとの結論を得た。この成果は英語論文としてまとめ、北米ジェイン・オースティン協会の機関誌に投稿予定である(締切2013.8.1予定)。 次に、平成24年7月にアメリカ合衆国で開催されたDickens Symposiumにおいてオースティン、ディケンズ、オルコットの作中に登場する女性を比較し、女性の経済的自立や女性らしさの定義の類似点と相違点を比較し、この3名の作家の時代性とアメリカとイギリスの文化風土の違いを検証した。 最後に、海外植民地拡大とともに、イギリス経済に影響を及ぼした産業革命と土地の囲い込みが当時の文学作品にどのように描写されているか研究した。産業革命の結果、イングランド北部の町では、工場を中心とした工場町が形成され、工場町が集まると工業地帯となり、そこに人が住む。一方、農村部では1740年代から土地の囲い込みが加速化し、農業技術は飛躍的に向上し、生産性は上がったが、その陰で大地主と小地主の間の格差は広がった。小規模な自作農は土地を所有できなくなり、父祖伝来の土地を離れ、都市に流入した。住人がいなくなり、荒れ果てた農村の様は例えば、オリヴァー・ゴールドスミス『寒村行』(1770)に見ることができる。この研究成果は平成25年夏刊行の共著に掲載する。
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