研究概要 |
これまで、中世英文学の作品はイングランドで書かれたという前提のもとに研究が行われてきたが、ウェールズ境界地域やアイルランドで制作された写本も少なくない。平成22年度は、イングランド以外で書かれた中世英文学作品をリストアップすることからはじめ、夏には、イギリスの大英図書館とケンブリッジ大学図書館において、イングランドとウェールズの国境地域で13世紀に成立したとされるAncrene Wisse(修道女の手引き)と、14世紀、アイルランドで書かれたLondon, British Library, MS Harley 913に収められているThe Land of CokaygneとPiers of Berminghamの作品を中心に作品が成立した社会背景を調査した。また、Harley 2253には、Ancrene Wisseが書かれた約1世紀後、その同じ場所で、長い時期にわたって一人の写字生によって筆写されたことが知られている諸作品が収められている。ここでも、Harley 913やAncrene Wisseと同じく、中英語、アングロ・ノルマン語、ラテン語の3言語が使用されている。Harley 2253にはアイルランドと関連する作品が収録されており、14世紀のイングランド、ウェールズ境界地域、アイルランドの間の交流を示している。これは当時の社会状況に一致していることがわかった。 大英図書館とケンブリッジ大学図書館では、写本調査をするとともに、作品が生まれた当時のウェールズとアイルランドが政治、宗教、文化においてどのようにイングランドと関わっていたかについての資料を収集し、コピーライトの許す限りA4サイズに統一してコピーし日本に持ち帰った。イギリスでは中世研究者とディスカッションする機会をもち研究テーマについて情報交換をすることができた。
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