これまで中世英文学の作品はイングランドで書かれたという前提のもとに研究が行われてきたが、他の地域で制作されたものも少なくない。中でも、周縁地域と見做されているアイルランドで1330年頃、一人の写字生によって筆写された大英図書館所蔵の写本Harley 913には、優れた作品が多く収録されているにもかかわらず、本格的な研究はほとんどされていない。ラテン語、英語、フランス語で書かれたこの写本には、宗教作品や修道会の記録に加えて、諷刺詩やパロディが収められている。中世アイルランドの社会状況を考慮し、作品の正しい解釈を示すことによって、この写本に様々なジャンルの作品が集められている理由を明らかにした。
|