研究概要 |
アイルランドにおける1921年から1939年という時代の歴史上と文学上の位置づけを行うために、23年度に続き、夏にダブリンの国立図書館、トリニティ・カレッジ図書館に加えて、コーク大学図書館でも精力的に資料集めを行った。資料集めには、この時代の保守的共和国支持者の定期刊行物Fánne an Lae, The Leader, Catholic Bullen などに掲載された投稿なども歴史的証言を求めるために含まれた。 特に今年度は3年間の研究まとめを行うために、アイルランド語ネイティブである小説家リアム・オフラハティの唯一のアイルランド語短編小説集Duil(『渇望』、1951)を研究対象とすることで、一つの興味深い立場にあるアイルランド人小説家の観点からのアイルランド独立期の二重言語政策と国家と個人のアイデンティティに関わる問題に切り込むことができた。 具体的には、『渇望』に収められた短編の初出年代が1925年のグループと1940,50年代というグループの二つのグループに分かれているのであるが、この二つの時期を通して、英語での作品は制作意欲が衰えることのなかったオフラハティがアイルランド語作品を出版しなかったという事実を、国家の変革期におけるアイデンティティの柱とされたアイルランド語と英語の二重言語政策との関係で論じた。ネイティブであり、政治的でもあったオフラハティの手紙、The Dublin Magazine紙への投稿記事、新聞のインタビューなどの発言を裏付けとして、この点を検証した。また、アイルランド語が母国語であるオフラハティのアイルランド語による作品が英語による作品と比べて格段に少ないという事実もその裏にある理由を論じて個人と国家のアイデンティティに関する考察に重要な一石を投じた。
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