1.「ジョン・デイヴィッドソン 藁が燃えるような暴力的なエネルギーの生涯-孤高の詩人の誕生から最期まで-」 本論文は、スコットランド文学の啓蒙を目的とした『スコットランド文学 その流れと本質』(木村正俊編、開文社、2011年3月)中の第16章John Davidsonについて、詩人としての出発点から最期までを、デイヴィッドソンのバラッド詩を手がかりに、彼のアイデンティティのあり方を考察したもの。19世紀の繁栄と貧困の二律背反を抱えたスコットランドの港町Greenockが与えた影響、スコットランドを捨ててロンドンに移住し、入会したライマーズ・クラブでのW. B. Yeatsとの確執とイェイツに与えた影響、都会に暮らす貧しく誇り高い労働者のモノローグ'Thirty Bob a Week'、精神を病んだ果てのイングランドの港町Penzanceでの入水自殺、尊厳ある死を描いた'A Ballad of a Runnable Stag'などについて論じた。 2.「ゴシシズムと摸倣-The Monkとバラッド詩-」 本論文は、バラッド詩の成立要因である「摸倣」という視点からゴシック小説The Monkに挿入されたバラッド詩の役割を考察したもの。バラッド詩は挿入された場面以降に起る事件を予告し、小説のゴシシズムを盛り上げる役割を負っているばかりではない。挿入された詩に対する高い評価の存在、発表当時の挿入詩の宣伝のための広告、ドイツ文学のpre-textsからのプロットとモチーフの援用、挿入詩のパロディをルイス自ら創作などの事実から、ルイスはこの小説で摸倣としての創作という芸術行為をゴシシズムをテーマに展開していることを明らかにし、小説中のバラッド詩は、ルイスの模倣の技が小説のゴシシズムを支えていることを象徴的に示す役割を担っていることを論じた。
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