平成22年度前半は、Toni MorrisonとKara Walkerが取り組んでいる南北戦争以前の南部の神話、および人種・ジェンダー表象の書き直しについての草稿作成を行った。その際、これまでの研究成果に、Morrisonの最新作であるA Mercy(2008)(奴隷制度の萌芽期を舞台にし、白人奴隷所有者と黒人奴隷、白人年季奉公人、ネイティブ・アメリカンとの関係を描いた)の考察を加えるため、この作品に関する資料収集も行った。8月~9月には、収集した資料の考察と分析を行い、1)二人の芸術家がアメリカ南部の神話および奴隷制度の歴史的アイコンとされてきたものをどのように書き換えているか、2)奴隷制度にまつわるトラウマ記憶をどのように表象しているか、さらには3)白人主流社会において性的・身体的存在として刻印されてきた黒人表象をどのように書き換えているのかを、歴史的・文化的にヴィジュアルな資料を追加していくことによって、より鮮明に浮かび上がらせていく作業を行った。その一部であるA Mercyについての草稿は、10月下旬の日本英文学会九州支部のシンポジアムにおいて発表した。11月上旬には、フランス(パリ)で開催されたToni Morrison学会において"Toni Morrison and Kara Walker : How to Represent Race and Gender in Reconstructing African-American History"という題目で発表した。この国際学会では、Morrison研究の最新の動向に触れ、著名な研究者と交流を深めることができ、大変有意義であった。3月には10日間という短い期間ではあったが、ニューヨーク市立図書館および同図書館ショーンバーグ分館において、黒人文化・歴史関連のより幅広い資料の調査・収集を行った。また、ニューヨーク現代美術館では資料調査だけではなく、Kara Walkerの講演を聴くことができた。平成22年度後半は、奴隷制度萌芽期についてアメリカで作成された映像資料や、20世紀のアフリカ系アメリカ文学と奴隷制度の表象について、Morrison以外の数人の作家のリサーチも行うことができた。研究成果は英語で原稿化することになったこともあり、出版は次年度になる予定である。
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