研究概要 |
本年度は初年度であるため、今後のエマソンの後年期の思想研究の全体的見通しを持つことが中心となった。本研究に関する研究・調査を行い、学会、研究会で研究発表をし、研究者と意見交換をした。また論文等を執筆し、研究書、研究誌に掲載し、本研究の重要性と現代的意義を提示した。 論文「米国におけるエマソン研究」においては、米国における1980年代以降の「脱超越主義化」を推進したエマソン研究は、ウィッチャーが指摘した、ニーチェの思想との類似性、自然に内在する「力」(パワー)の希求等の後年期のエマソンの思想の解明を一層進展させていることを指摘した。『スピリチュアリティの宗教史』の中の一篇「エマソンとSpirituality」においては、"spriitual"な側面に注目しながら、エマソンが「精神(スピリット)」の根源を宇宙自然に求めながらも、道徳的実践を通じて発現する「力」、「動き」と考えている点を指摘した。 『英文学研究』に掲載したPhilip F.Gura,American Transcendentalism : A Historyの書評においては、1840年代から1850年代にかけての超越主義内部(トランセンデンタリズム)での自己教養派(セルフ・カルチャー)と社会改革派の分裂と、霊的(スピリチュアル)から実際的な超越主義への変容について論評した。また1850年のDaniel Websterの上院での演説を契機に、奴隷制度廃止運動等のアメリカ社会の現実にも積極的に関与するようになっていった、エマソンの後年期の思想の特質との関連について指摘した。 研究発表"Emerson's Acceptance in Meiji and Taisho Japan"においては、エマソンが青年期に展開した超越主義思想に影響され、個人の「自我」と「内的生命」を探究した北村透谷等に対し、徳富蘇峰は、エマソンが中・後年期に展開した実際的・現実的な思想の側面に注目し、広く国民に紹介した点を明らかにした。すなわち我が国では、中・後年期のプラグマティックな思想を既に明治・大正期から受容していたという歴史的事実を指摘した。
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