研究概要 |
本年度のエマソンの後年期の思想の研究についての成果は、日本ソロー学会がソロー没後150周年を記念して出版した研究書『ソローとアメリカ精神―米文学の源流を求めて』に掲載された拙論「運命、本能、力―エマソンの後期思想の考察」に発表された。エマソンが後年期において運命、本能、力などのテーマをめぐって展開した、自然と人間精神の働きの関係についての思想の特徴を、青年期の超越主義思想と対比させ、『処世論』(The Conduct of Life, 1860) や後期講演集などの原典に基づいて論述した。 また同時にエマソンをプラグマティズムの先駆者としてとらえ、ウィリアム・ジェイムズの思想との比較的考察の研究も試み、その成果は「エマソンとウィリアム・ジェイムズ」に示されている。また日本ナサニエル・ホーソーン協会の協会員が執筆する研究書『アメリカ・ルネサンス―批評の誕生』に掲載される、プラグマテズムの視点からみたエマソンとジェイムズの思想の比較的考察についての論考を執筆し、2013年10月に発表される見込みである。 さらに日本ソロー学会発行の『ヘンリー・ソロー研究論集』に John T. Lysaker and William Rossi, eds, Emerson and Thoreau: Figures of Friendship の書評を掲載した。この書では、エマソンとソローの間の友情の実相と変遷が詳細に論じられており、エマソンを師と仰いでいたソローが、エマソンの影響を受けながらも、次第に離脱していった過程は、エマソンの後年期の思想を理解する上でも参考になることを指摘した。 従来のエマソン研究は、超越主義思想を展開した青年期・中年期が主流であったため、それ程解明されてこなかった後年期の思想に関する研究は重要であり、エマソンの思想の全容を理解する上でも意義があることを示した。
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