本年度は、特にエマソンをプラグマティズムの先駆者としてとらえる試みを中心に行った。『アメリカ・ルネサンス―批評の新生』に掲載された「エマソンからジェイムズへ―プラグマティックな視点からの比較的考察」においては、知覚と概念、経験、一と多、自己の二重性などをめぐって、両者の思想の共通性を考察した。同時にジェイムズにおいては、主知的傾向が徹底的に排除された結果、エマソンのような自然を象徴的・内的言語とみなす詩論・言語論の展開がみられないなど、両者の相違についても指摘した。また『長野県短期大学紀要』に掲載した「エマソンとウィリアム・ジェイムズ―宗教観をめぐって」においては、ジェイムズ著『宗教的体験の諸相』の内容との比較的考察を通じて、エマソンの求めた宗教が、神学上の教義、教会制度ではなく、宗教的情感を通じた個人の魂における体験を基盤とした倫理的宗教である点で、概念より知覚、信じようとする意志を重視したジェイムズと共通し、また歴史的キリスト教の人格的神概念から離脱し、普遍的宗教を求めた点で、多元的宗教観を展開したジェイムズと呼応すると論じた。 さらに長年のエマソン研究をまとめたもので、本研究の成果も含まれている英文研究書 Emerson and Neo-Confucianism: Crossing Paths over the Pacific を米国で出版した。 夏季休業中には、ハーヴァード大学を中心に調査・研究の機会を持ち、Lawrence Buellハーヴァード大学英文科教授と意見交換を行った。またアメリカ人のエマソン研究者と本研究課題について意見交換をしながら、米国エマソン学会の理事としての活動を行った。 これまで我が国のエマソン研究は、超越主義思想を展開した青年期・中年期が主流であったため、それ程解明されてこなかった後年期の思想に関する本研究は重要であり、またエマソンの思想の全容を理解する上でも学術的価値が大いにあると考えられる。
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