平成24年8月下旬にベルファストを訪れ、ベルファスト中央図書館でバーミンガムに関する新聞記事を収集した。ジャック・ロンドンとの親交を示す記事があり、バーミンガムが生前どれだけ高く評価されていたかを知った。またグレン・パタソンに会い、新作小説 The Mill for Grinding Old People Young(2012) の舞台を案内してもらった。それによってこの作品に対する理解を深めることができ、10月に大分県アイルランド研究協会で研究発表した。この小説はベルファストと諸外国と関わりを描いたグローバルな作品である。この小説のグローバル性についてはさらに研究を深め、平成25年度には日本アイルランド協会、IASIL JAPANで研究発表の予定である。 同じく8月にはダブリン大学トリニティ校図書館を訪れ、バーミンガムがダグラス・ハイドと交わした書簡を調査収集した。バーミンガムの初期のふたつの小説がゲーリックリーグ内で大きな波紋を巻き起こし、ゲーリックリーグは分裂の危機に瀕した。ふたりの手紙のやりとりからは、このふたつの小説はアイルランドの歴史を変えてしまいそうな影響力を持っていたことが理解できた。このことは25年3月に日本アイルランド協会『エール』第32号で論文発表した。またバーミンガムはこの騒動によってゲーリックリーグ幹部を脱退し、後に自叙伝の中でゲーリックリーグとの関わりを「短く不幸な関係だった」と述べた。しかし実際にはこの体験があったからこそ、後に「ユーモア」を基調とした人間愛に富む普遍的な価値を備えた小説が書けるようになったものと思われる。このことに関しては、平成25年3月にウェストポート歴史協会の学術誌であるCathair Na Martの第31号に論文発表した。 バーミンガムとパタソンの小説の普遍的意義をさらに解明できた有意義な1年であった。
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