「第二部」第4幕・5幕を主たる対象に、『ファウスト』の特殊な「歴史性」を解明することをまず当面の課題とした。最後の二幕を対象に選んだのには、それなりの根拠がある。そこに問題の特殊な「歴史性」が凝縮的に現れているように思われるからである。 第4幕の皇帝には、金印勅書を発布したカール4世と神聖ローマ帝国最後の皇帝フランツ2世が二重重ねにされている、ということが指摘されている。同一人物であるはずの第1幕の皇帝と、反皇帝との戦いに挑む第4幕の皇帝との比較も重要な課題の一つであった。舞台は一見中世にあるように見えながら、そこに盛られた主題は明らかにゲーテの同時代(それも執筆当時)のものである。 こうした基本的諸点に着眼しつつ、テクストの精細な読みに基づき、具体的な問題を考察することによって、特殊な「歴史性」の本質を明らかにすることを試みた。 方法論的には、『ファウスト第二部』を「19世紀のアレゴリー」と捉えて第1幕の本質を明らかにしたH・シュラッファーの研究(1981)、『遍歴時代』に現れるSymphronismusの概念を援用して特異な「歴史性」を解明しようとしたM・ビルク(1989)、『ファウスト』の「歴史性」を「対話的歴史性」と捉えるU・ガイアー(1999)などが特に参考になった。 上に列挙した諸点についての資料の収集・解読とあわせ、これらの文献を再検討しつつ、継続して「歴史性」の本質の解明、さらには「第一部」と「第二部」を統一する視点の提示を目指すことが、次年度の課題となる。 なお、本年度の研究成果は、中間報告として近い機会に学会誌に発表し、批判を仰ぐ予定である。
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