16世紀から17世紀にかけて、商都アントウェルペンを拠点として全ヨーロッパを、さらには新大陸をも視野に収めて、壮大な出版活動を展開したプランタン=モレトゥス工房について、創業者クリストフ・プランタンの書簡集の繙読、出版物の具体的な検討、プランタンの出身地フランスでの足跡の調査などを進めているわけだが、今年度の最大の成果は、ゲント生まれのカトリック知識人・大学教授のフートハルスが1568年に刊行した『フランドル語・フランス語対照ことわざ辞典』(近代版は存在せず)の調査によって、ラブレーへの言及を数カ所発見したことである。これは小なりといえども、新発見なのである、ラブレー受容の研究に、一定程度の貢献をはたすことができた。それと同時に、フランスの偉大な物語作家・ユマニストとフランドルの偉大な画家・版画家ブリューゲルとが、「ことわざ」によって、間接的な形で結びついているというか、「ことわざ」が支配する言語・図像空間に同居していたことが、あらためて確認できたと思う。 プランタンが幼少時を過ごしたとされるリヨンにも、久しぶりに赴き、調査をおこなったものの、当初の予測どおり、史料面での裏付けを得ることはできず、「世界文化遺産」となった旧市街を訪ねて、写真撮影などをおこない、往時を想像するにとどまった。残念ながら、これまたプランタンゆかりの土地とされるノルマンディのカーンCaenに行く余裕はなく、次年度まわしとなった。 関連実績としては、モンテーニュ『エセー4』(白水社)を刊行することができた(全7巻のうち)。《フランス・ルネサンス文学集》全3巻(白水社)の訳稿もほぼ出そろったところである。今後、2011年年度中の刊行開始に向けて、具体的な編集作業に着手したい。
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