研究課題/領域番号 |
22520299
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
塚本 昌則 東京大学, 大学院・人文社会研究科, 教授 (90242081)
|
研究分担者 |
月村 辰雄 東京大学, 大学院・人文社会研究科, 教授 (50143342)
中地 義和 東京大学, 大学院・人文社会研究科, 教授 (50188942)
野崎 歓 東京大学, 大学院・人文社会研究科, 准教授 (60218310)
本田 貴久 東京大学, 大学院・人文社会研究科, 助教 (50610292)
畑 浩一郎 聖心女子大学, 文学部, 講師 (20514574)
|
キーワード | メランコリー / 幼年時代 / 近代性 / トポス / 修辞学 / 夢 |
研究概要 |
本研究は、「メランコリー」と「幼年時代」という主題の分析を通して、フランス近代文学を、従来の「絶え間ない再開の美学」とは異なった視点から把握することを目指すものである。本年度は、探究テーマを〈夢〉に広げ、また精神分析の知見を検討し、研究をより深めることができた。具体的には以下の研究を行った。 1.ヴァレリーの〈夢〉に関係する断章の編集・翻訳・紹介を通して、〈夢〉が、「メランコリー」、「幼年時代」と通底する、近代性再考の重要なテーマであることを確認した。近代においては、始まりが神的な次元ではなく、個々の人間の生の次元で捉えられるために、その根源をなす幼年時代が重要性を帯びる。同様にして、夢もまた、覚醒した意識の根底にあるものとして重要なトポスとなった。ヴァレリーのように、ロマン主義の対極にあるように見える作家においても、眠りに落ちた意識がどのようにしてふたたび覚醒した意識となるのかが絶えず問題となっていた。これは近代という時代を捉えようとするとき、合理的思考を逃れる領域が本質的な要素となることを示している。 2.幼年時代、メランコリー、夢など、近代性再検討の手がかりとして浮上したテーマについて、「フロイトの時代-文学・人文科学・無意識」と題するコロック(東大本郷キャンパス、2011年11月5日)を開催、これらの問題をめぐる精神分析の成果と、文学作品との関係を考察した。鈴木雅雄(早稲田大学)、谷口亜沙子(獨協大学)、野崎歓(東京大学)、山田広昭(東京大学)、郷原佳以(関東学院大学)の諸氏にそれぞれの専門分野における無意識の問題系について発表していただいただけでなく、精神分析の専門家・立木康介(京都大学)、美学の小田部胤久(東京大学)、フランス哲学の鈴木泉(東京大学)の諸氏にもご協力いただき、それぞれの分野での無意識に関する知見が、文学研究とどのように関係し得るかを探った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の大きな目標は、フランス文学に現れた近代性をどのように捉え直すことができるのか、その視点を形成することである。「メランコリー」、「幼年時代」だけでなく、「夢」もまたそのようなトポスとして機能することを確かめることができた。それによって、これらのトポスに通底することから、近代性再検討の作業をさらに深めることができた。今年もこの努力を継続していきたい。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、個別的なトポス研究をより深めるために、文学の形式的側面、とりわけフィクションという文学の根底をなす条件に関する形式的な考察を深めることを目指す。近代文学において大きなジャンルに発展した小説、抒情詩、戯曲を相対化し、それ以前の文学、さらには20世紀後半以降の文学のあり方との関係で位置づけるために、フィクションに対する理解をより明確にすることは、本研究課題を推進するために不可欠の過程である。文学の形式的条件の分析を進めることで、本研究で取りあげているトポス研究をさらに進めていきたい。
|