本研究は、トーマス・ベルンハルトの文学を、イロニーやフモーアといった否定の詩学の観点から捉え直し、バロックからドイツ・ロマン派を経由する系譜の中に位置づけて、ドイツ・ロマン派のイロニーやジャン・パウルのフモーアとベルンハルト文学の親和性を探ることにより、ベルンハルトの文学全体を新たに定位することを目的としている。 研究開始後2年目である今年度は、昨年度収集整理を始めた研究文献をさらに充実させ、最近のトーマス・ベルンハルトに関する研究状況を精査することから始めた。9月の在欧研修ではインスブルック大学の新聞アルヒーフ(名前とは異なり演劇関係のビデオ収集も豊富)とウイーンでの観劇で収穫を上げることができた。当初予定していたクムンデンのアルヒーフは、マルティン・フーバー博士の予定と折り合わず、残念ながら同地での研究滞在は延期とせざるを得なかった。以上の成果を最終年にまとめるつもりでいたところ、11月になって突然2代のバリアフリー担当副学長から約束されていた平成24年度特任教授ポスト(バリアフリー支援室長の職の維持のため)が大学の財政上の都合から貰えないことになり、科学研究費による研究を24年度に継続することが不可能となった。まことに残念だが、退職後は私費による研究を続け当初の計画通り研究を仕上げることとしたい。 なお2011年11月3日から5日まで日本大学文理学部を会場に行われた「オーストリア文学に於ける死の諸相」Sterensarten der/in der osterreichischen Lieteraturと題する国際シンポジウムでは「トーマス・ベルンハルトに於ける死の風景-アムラスから消去まで」Todeslandschaft bei Thomas Berhard - Von Amras zu Ausloschung -と題する講演を行った。トーマス・ベルンハルトの文学の核心を探る試みであり、国内外の研究者の関心を引くことができた。
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