研究課題/領域番号 |
22520301
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
博多 かおる 東京外国語大学, 大学院・総合国際学研究院, 准教授 (60368446)
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キーワード | フランス文学 / フランス音楽 / 音風景 / 世界像 / 印象派 / 象徴体系 / 交通 |
研究概要 |
まず、前年度から引き継いだフランス文学と音楽における鐘の役割についての研究を論文にまとめた。大革命以前は宗教的・社会的な役割を果たしていた鐘の音が、空間的・時間的神話を積み重ねながら、「音の印象」として解体され、記憶の濾過を経た表象の一要素となっていく経緯を解き明かした。 また、ジェローム・グランジョン氏との研究交流、及びフランスにおけるドビュッシーと他芸術の交流に関する資料調査の中で、ドビュッシーにおける自然の音の表現について考察を深めた。象徴派や印象派からの影響を受けつつ、古代に遡る時間的想像を通して風景を描くドビュッシーの試みを分析した。 他方、バルザック小説における自我と世界の関係について論じ、噂やメディアの雑音が自己像、他者像の形成においてもつ役割を分析し、日本バルザック研究会主催のシンポジウムにて発表した。 さらに、研究計画に沿い、アルカンによるピアノ練習曲『鉄道Chemin de fer』などに見られる19世紀後半の新しい交通手段の音楽的表現、またネルヴァル『シルヴィー』からピエール・ロティ『ラムンチョ』、プルースト『失われた時を求めて』に展開される交通の音と想像力の関係について調査を進めた。この考察は、街路の音の表象研究と平行して行った。シャルパンティエのオペラ『ルイーズ』やプッチーニのオペラ『ボエーム』における街路の物音の表現も比較の対象とした。交通の音や街路の音風景の変化が、自己の意識を世界の広がりに結んだと同時に、個々の物語を「聞く」行為を内面化し、音を想像、発話、物語の中に取り込んで聞く態度を生み出したことを見た。社会の産業化や機械化が人間の想像力に与えた影響の一形態を明らかにし得たと考える。こうした外界の音についての研究成果は、平成24年度中に論文として発表する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定していた一部の資料はフランス国立図書館の資料修繕中などの理由で参照できていないが、ほぼ計画通りに文学作品・音楽作品の分析を進め、関連資料をもとに成果を出しつつある。
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今後の研究の推進方策 |
すみやかに本年度の研究成果を論文として公表し、フランス国立図書館所蔵の必要な資料については、一部、データベース化を要請する。データベース化できない音資料については、現地で直接に調査を行う。現実社会における音風景と想像の働きの変化を総合的に論じるために、通史的な観点をもって資料調査と分析を行う。
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