本研究は共和政末期からアウグストゥス帝治世にかけて現われてくる「ローマ人」像について、ラテン文学作品を中心とする関連文献を検討し、(1)その諸相を析出すること、(2)形成過程を観察すること、(3)支柱をなす理念を把握すること、(4)各作家が「ローマ人」を提示する表現手法を明らかにすることを目的とする。そのために、(1)カエサル『ガリア戦記』からウェルギリウス『アエネーイス』へという方向性、(2)ローマ共和政末期の歴史意識の高まりの中で生まれてきた「永遠のローマ」の理念、という二つを重要な着眼点として掲げた。 本年度の成果の第一は、ウェルギリウス『アエネーイス』における運命観について考察を勧めたことである。「運」ないし「運の女神」をめぐる表現が作品の主要登場人物三人それぞれの生き方を対比的に描き出すことにあずかっていることを観察し、それを通じて英雄的指導者にも人間としての限界が表現されていることを見た。この考察は研究集会での口頭発表(裏面〔学会発表〕の項参照)を経て、近く雑誌論文として発表される。また、そこでの検討においてカエサルの著作と共通する要素が気づかれており、さらに深めるべき課題として浮かび上がっている。すなわち、運と武勇が互いに関連させられながら、どのように成功への鍵として捉えられ、表現されているかという問題である。 加えて、ローマ人の生き方を表現するためにギリシア神話の表象が利用されている場合に目を向けた。「死を越える愛」(裏面〔学会発表〕の項参照)はその一つの着眼である。
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