2010年度は、研究分担者が個別にこのテーマについての研究を進め、それぞれドイツにおいて資料調査・収集および研究者との学術交流も行ったほか、そうした活動をふまえながら計4回の研究会を持ち、共通基盤の構築につとめた。本年度の課題はまず、西欧における非身体的/物質的なるものと身体的/物質的なるものに関する伝統的思考の代表的な潮流の概要を理解することであり、クラヴィッターがストア学派、トラウデンがグノーシス(エイレナイオス)、後期から当研究に参加した研究協力者の博士後期課程大学院生久山雄甫がネオプラトニズム(プロティノス)を担当して発表した。一連の議論のなかで、本研究では非身体的/物質的なるものをいかに定義するかが検討された。そのなかで、たとえばストアの「非物質的なものは作用/影響を持たない」「友情、道徳は、作用/影響を持つので物質的である」といったとらえ方が、示唆に富むのではないか、という点が議論された。その他、時間との関連、感覚知覚との関連などが議論された。さらに田邊が18世紀ドイツにおける観念論・懐疑論・感覚論の批判的受容について通俗哲学(エッシェンバッハ)および文学のテキスト(ヴィーラント)を例に発表し、身体/物質的なるものの実在と非身体/物質的なるものの非実在が、身体実践(飲食他)および当時の新しい科学思考と関連づけられている点を明らかにした。全体として本年度の段階では、非身体的/物質的なるものと身体的/物質的なるものの定義を明確化して限定することは避け、次年度に具体的な文学・哲学テキストを調査・検討するなかでさらに議論を深めることとなった。以上のように、本年度は、本研究の遂行にとって必要な共通基盤の構築が十分になされ、本年度の研究目的は達成された。
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