本研究の第一年度である本年度は、主に1790年から1800年の断片とパノラマの歴史的成立について研究した。とくに、フリードリヒ・シュレーゲルとノヴァーリスによるロマン派の雑誌Athenaumで導入された、断片という形式に重点を置いた。まず、文学形式としての断片の美的性格および、文学的著述の実践および思考形式としての機能について検討した。そのさい、とりわけ断片の体系的位置づけ、すなわち絶対的なるものとの関連が、重要な点である。本研究のさらなる観点は、文学形式としての断片がどの程度文化実践と関連しているのか(非・作品、犠牲、新たなる神話としての断片など)、自伝的実践とどの程度関連しているのか(日記との近似性)、などである。また、断片の「真実の語り」との関係についても検討した。そのさいとくに関心を持ったのは、断片的真実性と構築された真実との関連である。こうした研究から明らかになったのは、著述の身振りの問題化、すなわち剥奪、沈黙、包囲の身振りとしての、ある理念の兆候としての、断片、という観点である。さらにユートピア的なものという観点も、当初考えていた以上に重要であることが明らかになった。7月から8月にかけてのドイツ滞在では、ベルリンの国立図書館および文学研究センターにおいて、主にシュレーゲルとノヴァーリスの一次資料およびロマン派の断片についての最新の研究を調査・収集することができた。その成果をもとに、本年度後半は、断片と、知覚と主体化技法としてのパノラマとを比較するための、方法論について検討した。その理論的基盤を得るために、フーコーの主体化の技法と自己の実践についての著作と取り組んだ。
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