研究概要 |
本年度の研究成果として以下の点を挙げることができる。 ラシーヌが少年期にポール・ロワイヤル修道院付属の「小さな学校」で受けた人文主義的教育が後の劇作家としての創作活動に与えた影響について、具体的な例の分析を通して明らかにした。まず、修辞学および詩学が準拠する概念である「発想」、「配列」、「措辞」が悲劇の創作の手順を説明する上で有効である点を確認した(「記憶」と「演技」は役者の担当する部分であり、ここでは区別して考える)。その上で、ラシーヌが残した悲劇「タウリスのイフィジェニー」第1幕の自筆「プラン」(梗概)を分析し、そこでは「配列」(劇の筋)と「措辞」(詩的文体)がすでに分ちがたく結びついていること、それがポール・ロワイヤルにおける師の一人であるニコルがある詩撰集の序文で述べている忠告にかなったものであることを指摘した。古典古代の作品を原語で読み、その要約や抜粋を作ること、あるいはそれを自然で優美なフランス語に翻訳すること-これらの教育的実践を通し、ラシーヌにおいて古典作品の受容が創作へとつながっていく道筋を確認することができた。これらの成果は論文《Les et apes de la composition d'une tragedie racinienne》としてComment naft une euvre litteraire? Brouillons, contextes culturels, evolutions the matiques (Champion)中に発表した。 劇作家ラシーヌと国王の歴史編纂官としてのラシーヌを統一的な観点から理解するため、16世紀から17世紀にかけての人文主義における歴史書と歴史観について調査を行った。このうち、特に悲劇ジャンルにおける歴史の扱われ方について研究した成果の一端を《Histoire et fictiond ans la tragedie du XVIIe siecle》としてフランス文学と歴史に関するシンポジウムにおいて発表した。
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