研究課題/領域番号 |
22520312
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
和田 章男 大阪大学, 文学研究科, 教授 (00191817)
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キーワード | フランス文学 / プルースト / 生成研究 / 草稿研究 / 失われた時を求めて / ゴンクール |
研究概要 |
平成23年度は、プルーストの同時代作家として重要な位置を占めるゴンクール兄弟を採り上げ、とりわけ『失われた時を求めて』の中にも、パスティッシュ(文体模倣)として架空の未完日記としてとり入れられている『ゴンクールの日記』に焦点をあて、プルーストがどのようにゴンクール兄弟の日記を小説に導入したかを調査した。草稿帳カイエ55、カイエ74におけるゴンクールの架空の「日記」の下書き、メモ帳のカルネ1、カルネ3、カルネ4におけるゴンクールおよびその「日記」に関するメモを綿密に調査するとともに、評論、書簡等におけるゴンクールへの言及を網羅的に収集し、分析した。また、カルネの調査により、プルーストのゴンクールへの関心は二つの時期に分かれ、関心の有り様も異なることが判明した。1909年初め頃には、批評家サント=ブーヴと関連づけられ、『ゴンクールの日記』からの引用も、いろいろな作家の逸話に関わっている。これはサント=ブーヴもゴンクールもともに作品よりも作家の生態への共通した関心に着目した結果と考えられる。他方、1915年頃のカルネにおいては、17世紀の回想録作家サン=シモンと並列されることが多いことに着目した。ゴンクールもまた日記を19世紀における回想録として記録に残すことを意識していたことから、その記述の仕方、および独特の文体へと関心が移行していることを明らかにした。本研究成果を平成23年9月の関西プルースト研究会で口頭発表し、意見交換を行った。また同内容を発展させたものを、平成24年3月にパリで開催された国際学会で口頭発表し、高く評価された。 平成22年に国際バルザック研究会で発表した内容の論文を投稿し、電子出版される予定である。平成22年11月に発表したプルーストとフローベールに関する論文もまもなくフランスで公刊されることになっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
過去の作家としてスタンダールも調査対象としたかったが、当該年度は同時代作家のゴンクール兄弟およびその日記に焦点をあてることになった。プルーストが青年期を過ごした19世紀末の重要な思潮のひとつが自然主義であり、その潮流への批評的観点は豊かな広がりがあるため、今後の研究への足がかりともなった。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は本研究の最終年度になるが、19世紀末のもうひとつの潮流である象徴主義の代表的詩人としてマラルメとの関係を調査する予定である。マラルメの詩の一部がプルーストの小説に導入されており、その導入過程および、プルーストのマラルメに対する見方を調査・分析する予定である。自然主義と象徴主義という同時代の重要な文学事象の中で、プルーストの文学創造を探ることになり、プルーストの文学観・創作理念等を相対化する上で、有効な比較論になると考えている。
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