本研究は、草稿資料に基づき、①プルーストの『失われた時を求めて』と同時代文学事象との関連の調査、②バルザック、フローベールなど19世紀作家の受容・批評史の中にプルースト批評を位置づけることを目的としている。 プルーストのフローベール論を、過去あるいは同時代の批評言説と比較することによって、フローベール批評史の中に位置づけ直した。国際学会で発表した内容を発展させて、"Proust face a l'histoire de la critique sur Flaubert"という題のもとに、共著として出版した。バルザックの創作法を意識化していく過程を草稿資料において跡づけた研究は、電子出版によって公表した("Proust et Balzac : la methode de travail des deux ecrivains")。またゴンクールの未完日記の公開という同時代文学事象を、プルーストが作品にどのように取り込んでいったかを、書簡、草稿、メモ帳の調査により明らかにした。この成果は「プルーストと「ゴンクール日記」」というタイトルの論文として発表した。 本研究とも関連の深い博士論文(1986年、パリ第4大学)を、部分的な加筆の上、本年度にシャンピオン社より出版することとなった。本論文は草稿資料の分類、整理、年代設定に焦点を合わせ、いわばテクスト内部の生成・変化を論じたものであるが、本研究は草稿の中の実在名を出発として、テクスト外部へ視線を移動させている。両研究を合わせることによって、実証的な根拠を持つ文学生成研究となると思われる。 他方、フランス国立図書館において主に象徴主義関係の文芸雑誌を調査するとともに、パリ第3大学名誉教授ピエール=エドモン・ロベール氏と面談し、本研究について意見交換をし、さらに国際学会の企画について相談した。
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