昨年度から始めた文献収集のための書誌情報の整備、並びに実際の文献収集を継続した。ベルリン国立図書館で行った文献収集では、電子的に複写されてPDF化されているものが館内で自由にダウンロードできるようになっていたため、収集の効率が飛躍的に上がった。短い期間で電磁的に数ギガ単位の一次文献を収集できた。それに加えて、入手困難な二次文献を手作業や委託の形で複写した。ベルリンでの一次文献の収集が膨大な量になったため、その後の書籍購入は二次文献中心の形に切り替えた。 理論面では、昨年度の成果を年度の早い時期に論文にした。模倣の詩学は近代美学に取って代わられたとする<近代美学の誕生>という物語への還元とともに、こうした<人間学の誕生>という物語への還元を同時に相対化することが本研究の進むべき方向性であろうということを述べた。 その後は特に、ヴォルフの追放と復帰というドラマが展開されたハレという都市に重点を置いて、敬虔主義と合理主義の争いを背景に、主として、敬虔主義の影響を受けた詩学の情動論的な側面について考察した。情念を病のように捉える観念、情動を不可欠の精神的契機と見る思考、情動を積極的に活用しようという発想があるなかで、敬虔主義の影響という点では、情動面を重視する姿勢が確認され、霊感的な詩作やその詩の受容での同化効果、友情という詩の素材の同化的特徴、「崇高」という素材の異化効果にその特徴を認めた。そうした詩学は、スイス派の詩学と親和性があり、ゴットシェートと対立することで時代の理論的振幅の片方の極を形成していた。これらの論点を5月刊行の『ドイツ啓蒙主義研究』に掲載予定の文章で整理する予定で、現在その準備中である。
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