研究課題/領域番号 |
22520313
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
福田 覚 大阪大学, 言語文化研究科(研究院), 准教授 (40252407)
|
研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | 詩学 / 情動論 / ドイツ / 模倣 |
研究概要 |
3年目の今年も文献収集を継続した。9月にベルリン国立図書館で行った作業では、PDF化されている一次文献を主たる収集対象とした。約200点を調査対象とし、ウェブで世界的に公開されていると確認されたものや日本で入手可能と判明したものを除く形で、多くの資料を効率よく入手できた。その後、二次文献中心の書籍購入によって収集を補完した。 集められた数多くの文献や今後目配りすべき文献に対して、学問領域や使用用語などの補助的情報の整理という点で工夫を加えたいと考えているが、詩学とその隣接領域の文献を並置してそのつながりとして学際性を見るのではなく、あくまでも詩学書のなかの立論において他の学問との間の影響関係を見るのが本研究の探る学際性であるというように基本認識を修正し、その下での方策を検討している。 理論的考察においては、とりわけ、ヴォルフの形而上学を議論の土台としていると思われる、あるいは親和性が高いと思われる医学者E.A.ニコライの「情念」論と哲学者ズルツァーの「感情」論を比較することで、異なる学問領域を横断するところで、想像力の作用の仕方が異なることを確認した。ニコライの場合は観念が射影のように情念を喚起するという比較的単純な議論の仕方をしているが、ズルツァーはむしろ対象が複合的なものの場合に成立する感情について議論している。この構図が詩学における模倣説の段階性の議論、つまり、単純な模写的な模倣と高度な連関を創出する模倣を比較する構図にそのまま通じていると考え、12月の講演において口頭発表した。 また、チューリッヒのスイス派、ライプツィヒのゴットシェート派に対するハレのピューラの関係についての考察を、論争や影響作用史を背景にした形の整理から、土台としている学問を背景にした形の整理に遷移する方向で進めた。これについては、次号の『ドイツ啓蒙主義研究』に掲載する予定で、現在その準備中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
文献収集は、ベルリンでの作業が予想以上のハイペースになっていて、全体的に非常に順調と言える。それでもまだ発掘すべき一次文献は多く残されていると推定され、二次文献に関する収集と書誌の整備も発展が望まれる。 集められた文献や今後目配りすべき文献に対して行おうとしている、学問領域や使用用語に関するキーワードなどの補助的情報の整理については、上述のような基本認識の修正から、詩学における内在的な整理が学問間の関係的な整理となるような方策を検討する必要が出てきている。目指しているのは、論文を執筆する前段階である程度目安を付けることができるような補助的参考資料だが、論文に書くような考察の深度を伴わずにその手前のところで情報の仕分けを行う試みを、量的にある程度大きな規模で行うことがどこまで可能か、模索が続いている。 理論的考察において、医学と詩学の学説的な接点により目配りすることで、昨年の議論を、学問の枠を超えた思想構造の描写といったところにまで進めたいと考えていた点については、美学や哲学も加えた形で想像力の複合性やそれに結びつく情動に着目して学問間の親縁性を見定めれば、それを模倣説の構築と結び付けた形で議論可能ではないか、という見通しを得た。模倣説と結び付けられたことによって、啓蒙主義時代の情動論から「人間学の誕生」や「近代美学の誕生」といった文脈で捉えられてきた研究史を相対化する、その足がかりも得られた。 各都市における思想状況やその地域偏差に関して、詩学書を軸に諸学の連関を見極める構想については、その都市において活動した代表的人物を比較している段階なので、より非人称化した説明が可能か、むしろ固有名と結びついたライフヒストリーから有機的に考えるべきなのか、さらに踏み込んだ分析が必要になっている。
|
今後の研究の推進方策 |
書誌的な情報の整理と内容的な論文執筆の中間で補助的参考資料をまとめる構想は、収集した資料や収集候補の資料のリスト化から始め、そのあと、詩学書のなかにある他の学問領域の思考を抽出する工夫について、それ自体を方法論的に検討する必要がある。他の学問の用語を用いている、他の学問の文献からの影響や親和性が認められるといった点を、文献同士の関係性ではなく、詩学書のなかに見られる特徴として挙げる形式を検討する。 理論的考察では、詩学書における情動論への傾倒と、詩学書が念頭に置いている想像の複合性を鍵とすることで、当時見られた模倣概念の多様性の議論に接続できると思われるので、それを突破口に、詩学史の記述というものを「人間学の誕生」や「近代美学の誕生」という個別的な学問編成についての言説に還元せずに、諸学の編成全体を見渡しながら、語られる論件、問題設定の仕方、それに対する解答の理論的振幅という観点から描けるように、分析を深めたい。
|