昨年度に続き、蓋然性と確実性にかかわる文献調査に努め、同じ問題意識からパスカルの著述群、計算機製作過程、デカルト『省察録』などの読み直しを行なった。その具体的成果としては、論文「パスカルにおける始原と中間(その2)」を発表した。この論文では、第1に、パスカルの政治論を扱い、小品『大貴族の身分に関する講話』および『パンセ』の政治論を、「始原」と「中間」という新しい観点から再評価し、身分制や王制、法体系といった政治秩序が、その起源においては不確実と無根拠性を露呈し、正当性を揺るがされること、しかしそうした起源を隠蔽した状態でなら、邪欲からさえ引き出された「みごとな秩序」として讃えられ、相対的安定を獲得することを指摘した。こうした相反する二面性は、先立つ論考(その1)で見た人間的認識や「幾何学の秩序」の場合と、コンテクストの違いを超えた類比性を見せるものである。第2に、護教論の構成自体にも、同じ構図が当てはまることを明らかにした。パスカルの護教論は、無神論者折伏のために、全27章が有機的な連関をもって展開するという独自の「秩序」を示す作品であるが、認識論や政治論の場合同様、著作の「初め」と「終わり」において、いわばその無力を宣告され、著者自身、そうした護教的努力の結果獲得される信仰が、「救いには無益」であると告白する。最終的に人間の心を真の信仰へと傾かせるのは神の業であり、人間的努力ではいかんともしがたい事柄だからである。こうして、幾何学も政治も護教論も、「愛の秩序」の確実性を欠いているが、にもかかわらずその「似姿」として、中間的・蓋然的秩序、人間に唯一可能な秩序であり、同時に肯定と否定の対象となる。本年度はこうした諸点を明らかにした。
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