当研究の初年度である平成22年度は新しく入手した資料を読むことに多くの時間を割き、その分析の結果を直接反映した論文の公刊には到らなかった。 今年度発表した研究成果のうち、論文「ドービニエの『悲愴曲』における墓」は、当時のカトリックとプロテスタントの間の墓地をめぐる対立を踏まえつつ、カトリックの権力者が眠る大理石の墓が否定的に表現されるのと対照的に、火刑に処せられるなど安らかに眠る墓を持つことが許されなかったプロテスタントについては、多様な隠喩的な詩句で「墓」が表現されていることを確認したものである。当研究は、宗教戦争を時代背景に、詩人たちが国家と宗教という主題をどのように表現したかを明らかにしようとすることを目的としており、当論文により、プロテスタントを代表する詩人の「墓」についての詩的表現を検証することができた。 論文「16世紀後半の詩集における時の経過」は、デュ・ベレー『ローマの古跡』『哀惜詩集』、ロンサール『恋愛詩集(1552年版)』、デポルト『初期作品集』、ドービニエなどの詩集について、それぞれの詩集に特徴的な時間の経過をまとめたものである。当論文は、ロンサール、デポルト、ドービニエについては恋愛詩集を考察の対象としており、その意味で当研究と直接的な関連は少ないものの、デュ・ベレーの作品を通して、ローマからの帰国後、媚びへつらいが蔓延しているフランスの宮廷に幻滅しつつ、そこで生きるしかない詩人のあり方など、「国家と宮廷」についての詩的表現を検証することができた。
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