当研究は、宗教戦争を時代背景に、詩人たちが国家と宗教という主題をどのように表現したか、歴史の証言者としての詩人たちの実像を、論説詩、風刺詩、墓碑銘詩など、ジャンルごとに明らかにし、庇護者との関係、宮廷、宗教的立場などの詩人の社会的立場を考察し、詩作品と同時代史の関係を明らかにしようとすることを目的とするものである。 今年の成果としては、その一部を論文「ロンサール『論説詩集』とドービニエ『悲愴曲』における暴力の表象」として発表した。学会フォーラム「フランス・ルネサンス文学に見る暴力の表象とその周辺」での発表をもとにした論文であったため、暴力についての表現の分析を中核とするものとなったが、当研究の目的に照らすと、論説詩を通してロンサールの庇護者、宮廷、宗教的立場を整理し、またプロテスタント詩人のドービニエの証言のあり方の特徴を指摘することができた。 ロンサールの「当代の悲惨を論ず」など『論説詩集』を構成する一連の作品は、第一次宗教戦争を契機に書かれている。ロンサールは、まず王母へ内乱の収束を、次にカトリック、プロテスタント陣営など内乱の当事者へ戦闘、暴力の停止を、そしてプロテスタントへ欺瞞に満ちた説教の否認をと、一連の作品において、呼びかけの対象を変え訴えている。ロンサールが、宮廷詩人として、王権、カトリックの立場で内乱、プロテスタントの偶像破壊といった暴力批判から、「当代を代表する詩人として、蔓延するプロテスタント側の言説を暴力として捉える立場へと移行していたことを明らかにした。 ドービニエの『悲愴曲』は論説詩というジャンルに収まるものではないが、宗教戦争におけるプロテスンタントに対するカトリック側の暴力、その不正自体、迫害されたプロテスンタントの救済への担保となっていることを指摘した。 これらの分析は当研究の中、論説詩に関わる論考の主要な部分を構成する予定である。
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