20世紀に開花したチェコの視覚芸術は、つくり手のレベルでも作品のレベルでも、表現の点でも思想の点でも、文学と密接な関係を取り結びながら発展してきた。本研究は、文学的想像力がそこでどのようなはたらきをしてきのかを検証することによって、チェコの視覚文化の特質をあきらかにすることを第一の目的としている。本年度は研究初年度としてとくに資料収集に力を注いだ。なかでもここ数年のあいだに相次いで刊行されている映画人たち、とりわけチェコのヌーヴェル・ヴァーグの監督たちにかんするモノグラフや、名作とされながらソフト化されていなかった古い映画のDVDなど、映画関連の興味深い資料を数多く入手することができた。こうした資料をつかって、本研究の観点からチェコ映画にかんする考察を進めた。いま現在チェコのアニメーションをあつかう翻訳書の準備をすすめており、その作業のなかでアニメーション作品にたいする文学者たちの貢献も具体的にあとづけることができた。ポエティズムと呼ばれるチェコ独自の芸術運動があった1920年代のチェコ文化を、ヨーロッパ文化というよりひろいコンテクストにおいて検討すると、都市文化ならびに大衆文化というテーマがきわめて重要なものとして浮上してくる。これもまたひきつづきあつかっていかなければらない問題として再認織した。そのほか、現代のチェコの映像作家ヤン・シュヴァンクマイエルの芸術観を検討するなかで、作家が重視する「韜晦」についてもあつかい、遊戯性をそなえた偽装の形式にもとづく表現であることをあきらかにした。
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