過去3年にわたって収集につとめた20世紀チェコの視覚芸術にかんする資料の分析ならびに検証をとおして、本研究のテーマである「文学的想像力のはたらきと意味」にかんする考察をさまざまな観点から進め、研究全体のまとめを行なった。 研究成果の公表としては、まずアニメーション制作において著名な詩人や作家がきわめて大きな役割を担うことがあったこと、ならびに劇映画では60年代のチェコスロヴァキアのヌーヴェル・ヴァーグが文学といわば連動しながら展開していったことをあきらかにする論文を発表した。20世紀前半のチェコスロヴァキアを代表する詩人ヴィーチェスラフ・ネズヴァルの小説『ヴァレリエと不思議な一週間』がヌーヴェル・ヴァーグの監督によって映画化されていることはそこでもふれているが、これについてはべつのところでも紹介する文章を発表している。 この数年間、編集・翻訳作業を進めてきた、チェコ・アニメーションをあつかう大部の書籍をようやく刊行することができた。アニメーションの黎明期から現在までの主要な作家のインタビューをまとめたもので、作家自身の言葉をとおして、それぞれの時代における創造的想像力のありようがいかなるものであったかを検証することができる。アニメーション文化という枠にとどまらない、チェコの視覚芸術全般の受容と研究にとって有意義な情報がこれによって得られるものと考えている。 そのほか、ポーランドの作家・画家ブルーノ・シュルツが現代のさまざまなジャンルの芸術家にあたえた影響を具体的な作品の分析をとおしてあきらかにする論文、日本のデザイナー石岡瑛子が手がけた、ポール・シュレイダー監督の映画『MISHIMA』のプロダクション・デザインの特徴・特質を検討する論文、さらに日本のアニメーション作家、黒坂圭太の『緑子/MIDORI-KO』の独自性を考察する評論も発表した。
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