本研究は、18世紀ドイツ語圏における言語論の諸相を明らかにすることを目的とした。その際に、18世紀プロイセンの思想家ヨハン・ゲオルク・ハーマンの言語に関する著作を中心に扱った。ハーマンにおける「へりくだり」概念を軸として、言語の起源、音声や文字、文体、また翻訳といった、言語のさまざまな側面を系譜的に記述することに努めた。通常の言語思想史であれば、時代ごとや著者ごとの特徴づけを行う。しかし、そのような方法は採らず、ハーマンを中心としつつ、クロップシュトックやズユースミルヒやヘルダーやカントなど同時代人との思想的対決をテーマごとに跡付けていくことで問題を系譜的にたどった。このようにして、これまでの言語思想史の枠組みを再検討し、また新たな視座を提示することに努めた。この問題の探求のために、これまであまり日本では顧みられなかったハーマンの翻訳概念にも言語コミュニケーションという観点から着目し、特にヘルダーとの比較においてこれを調査・研究した。それにより、より幅広い枠組みで啓蒙時代の言語論の一断面を明らかにすることができた。最後段階では、これまでの研究を総括的にまとめ『ハーマンの「へりくだり」の言語』と題して知泉書館より刊行した。
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