本研究は、その学術的な特色として(1)国内外で最初の、文献学的シュトゥルム・ウント・ドラング研究と比較文化研究を統合すること、(2)恣意的に使用されてきた概念に明確な定義を付し、人文学諸分野における共通理解を生むこと、(3)ドイツ文芸学から、学際的なヨーロッパ文化史の一分野を提案する発信型の研究となること、を掲げて遂行された。 本研究がその期間中に挙げた実績は(1)一件自明であるかのようなドイツ文学史の時代概念を、様式概念として再定義し、(2)新定義を通じ、ドイツ文学史のみならずヨーロッパ文化史に新たなアプローチを開始し、(3)芸術諸分野における同時的類似の革新的な現象を比較検討することによる学際性を発揮(論考、学会発表等において)し、(4)従来全く看過されてきたカントからの直接の啓蒙摂取を検討し、啓蒙思想の研究に一定程度寄与し、(5)手薄な研究分野「ドイツ人植民地バルト地域のドイツ文学研究」を開始すること、以上の五点である。 上に掲げた成果を総合すると本研究の意義として、(1)「シュトゥルム・ウント・ドラング」の戯曲タイトルから時代概念への変遷過程を文献学的方法により解明し、ドイツ文学史における意味内容を明確に記述、定義したこと。(2)ドイツ文芸学に根強く残るシュトゥルム・ウント・ドラングはドイツ文学にのみ固有な現象であるとの従来の見地を打破し、美術、音楽、オペラ、舞踊、英仏文学における同時的な革新運動との関連性を検討して、様式概念としてシュトゥルム・ウント・ドラングを提案し、学際的な新たな研究分野を提案したこと。(3)辺境、コロニー、被占領地域、外国における「ドイツ文学」の展開を検証し、18世紀後半のヨーロッパにおける文化的革新を目指す諸作品と、地域文化研究を統合する視点を提供したこと。以上の諸点を報告することができる。
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