本年度は18世紀後半の雑誌メディアというテーマをとりあげるとともに、最終年度にあたるため、研究全体の総括をおこなった。 リヒテンベルクが1778年から99年までの間、編集に携わった『ゲッティンゲン懐中暦』に掲載されている挿絵を調査した。この雑誌に見られる図版は、1. 扉絵、2. 最新のモードのカタログ、3. 毎月の暦にそえられた銅版画、4. 本文中に挿入されたホガースの銅版画の部分複製の四種類に大別できる。このうち、扉絵とモードのカタログは、図像のみによって雑誌の性格、目的、読者層にかんするメッセージを発している。それに対して、毎月の銅版画とホガースの銅版画は、言語テクストと組み合わされることによって意味をなすものである。また、毎月の銅版画には、オリジナルの道徳的な主題をリヒテンベルクが画家ホドヴィエツキに提案し、できあがった絵に解説を添えたものと、シェイクスピアの演劇や歴史上の名場面のように既存の物語を図像化したものとがあり、ホガースの銅版画は、リヒテンベルクが執筆した解説に、銅版画の一部を抜粋して配列し直したものである。このように、『ゲッティンゲン懐中暦』という18世紀後半に娯楽と教養を目的として広く読まれた雑誌においては、図像とテクストとが単純な一対一対応の関係にあるのではなく、図像とテクストとのあいだには複数のレベルの相互関係が存在し、一冊の雑誌の中でそれらの諸関係によって情報が構成され、発信されていることが明らかになった。逆に言えば、この時代には雑誌というメディアを通して図像とテクスト、そして両者が織りなす多元的な関係を読み解くリテラシーが成立していたということでもある。『ゲッティンゲン懐中暦』の挿絵については、ホガース銅版画の解説を除くと、言語とイメージの関係という観点からの総合的な考察はこれまでおこなわれておらず、その点に本研究の独自性と意義があるといえる。
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