ヘルダーの主著『人類歴史哲学考(イデーン)』の精読を通して、非ヨーロッパ世界とヨーロッパ世界の相互関係についてのヘルダーの視点を解明し、「自然」「風土」「文化」「歴史」など当作品を構成する主要概念に新たな光を当てる作業を行なった。この作業は、従来19世紀ドイツ歴史主義の先駆として位置づけられてきたヘルダーを18世紀ヨーロッパ固有の脈絡のなかに置きなおして、現代的意義を問い直そうとするものである。 これと関連させながら、和辻哲郎のヘルダー受容を解明する作業をおこなった。この作業は、『風土』と『近代歴史哲学の先駆者』のテクスト形成史的視点からの考察、および20世紀のヘルダー解釈史における和辻の特性の解明の二側面から行なわれた。 上記、ヘルダーおよび和辻哲郎についての考察の成果は、日本比較文学会東京支部12月例会において「和辻哲郎とヘルダ---『風土』の形成過程における『イデーン』の影響を中心にして」という標題で公表した。 並行して、ヘルダーに先立つドイツの著作家レッシングの非ヨーロッパ世界把握に関する考察を『カルダーヌス弁護』を中心にして行ない、その成果を2010年9月、18世紀ドイツ文学研究会において「レッシングとピエール・ベール」という標題で公表した。 非ヨーロッパ世界把握とならぶ当研究課題の軸である社交性に関しては、2010年12月、大陸自由主義研究会において「18世紀ドイツ思想における社交性のモチーフ--啓蒙主義から初期ロマン主義まで」という標題で講演を行なった。 上記の諸作業を踏まえて、2011年2月から3月にかけてベルリン国立図書館において、文献の調査・閲覧・撮影・複写の作業を行なった。 2010年8月に公刊したカッシーラー『象徴形式の形而上学--エルンスト・カッシーラー遺稿集第1巻』は、当研究の理論的基礎に関わる。
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