「オストロミール福音書」(Ostr)については、分かち書き化の後Vostokov・Kozlovskij・Rep・版の諸補訂によりチェックを終えたテクストを、119va迄電子化した。すでに電子化してある「ムスチスラフ福音表」(Mst)・「アルハンゲリスク福音書」(Arch)の両テクストを四福音書順に置換する作業は終了した。この間岩井は、「サバの書」(Sar)とOstrとの密接な関連性から、カノンテクストに準するブルガリアの「バチカン・パリンプセスト・キリル・アプラコス」(VP)に注目し、そのmenologionを検討した。結果、1)Menologionにおいて81のカレンダー項目を、<12の副音>において8つの項目を確認した。2)Ostrとの間に差異が存することを確認した。3)カレンダー部分の日付け・視察対象・Imeの型・アンモニオス番号・ペリコペー等を詳細に見ると、VPのmenologionには少数の誤認がありさらに記事に不統一性が認められる。これは即ちにVPのmenologionがブルガリアないしマケドニアにおけるmenologion編集の完成への流れにあって、整理・改新をも含めて、その途上の作品であった可能性を推察せしめる。4)細部の点でDogramadzijeva、2010の記述と少数意見をことにした、等々の知見を得た。服部は、ロシアのOstr・Arch・Mstの3アプラコスとOCSの諸カノンや東ブルガリアのテトラ系写本との間で、これ迄の研究をふまえた上で改めて比較対照を行なった。これによりロシアのアプラコスの共通特徴さらに独自の個性的特徴を明確にせんとした。例えば次のような動詞形にその事例をみる。OCSカノンテクストKljucitz(Mt26.35)に対しロシアのアプラコスArchはlucitz、その平行箇所Mc14.31では「ゾグラフォス写本」(Zog)はlucitz、Ostrはpri-lucitz、Mst sz-lucitz、東ブルガリアのテトラ「バニシコ福音書」(Ban)sb-kljucitzと、語彙の異なり・接頭辞の有無と接頭辞の異なり等の諸状況が存在している。
|