研究課題/領域番号 |
22520333
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
徳田 陽彦 早稲田大学, 政治経済学術院, 教授 (40126602)
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キーワード | プルースト / 物語構造 / ヨーロッパ美術 / 忘却 / 無意志的記憶 / アルベルチーヌ / 未完小説 / 編集の問題性 |
研究概要 |
23年度は、科研費による研究年度と早稲田・パリ大学交換研究員制度による10月からのパリ滞在が重なった。事務手続き上は非常に煩雑になったが、パリ滞在のメリットも非常に大きい。第一に、パリではナタリー・モーリャック氏が主宰するゼミナールに参加して、多くの研究者と意見交換する機会となった。また同氏と京大教授の吉川氏が共同主催したプルーストのマニュスクリ(手帖、タイプ原稿、清書原稿等)にかんする大々的なシンポジュムがあり(今日の著名なプルースト研究者のほとんどが参加)、多大なる刺戟を受けたことはコトバに表せないくらいであった。 また所属するパリ第3大学で2度講演をおこなったが、自らの考えを整理して発表し、質問時間とその後の会合で研究者からの質問に答えているうちに、筆者の考えとは異なる考えも可能なのだと今さらながら再発見して、とりわけ研究テーマである「忘却」にかんしてもう少し幅広い視点を持つべきだと認識を新たにした。「失われた時を求めて」の第6巻を刊行・翻訳をする場合、どの資料に基づくべきかは、すぐさま答えらえない課題であった。モーリアック氏の「短縮判」は筆者の仮設からしても採用できないが、といって清書原稿とタイプ原稿のどちらを選ぶべきは、編者の判断は小説のコンテクストに鑑みて、やはり(未完小説とはいえ)、どちらのテキストも尊重し、物語の流れを尊重して読者にわかり易いエディションを編むべきだとの考えを披露した。 パリ滞在は、「プルーストと西洋美術」研究のうえで、大いに利点を発揮した。大まかに分けて、プルーストが興味をしめしたルネッサンス絵画、フランドル・オランダ絵画、印象派絵画はヨーロッパ中の美術館・教会に散在するからである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「失われた時を求めて」の第6巻「消え去ったアルベルチーヌ」だけでなく全巻でプルーストが展開する美術批評はあまりにも幅広く、さらに書簡集を含めて言及した美術家の作品はより幅広い。そのすべてとはいわないが、これらの美術家の作品をになんとか接したいと考えていたが、今年度は時間的に余裕がなかった。とりわけジオットー壁画があるパードヴァ市のスクロベーニ礼拝堂は保護のため、正味20分しか許されなかった。
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今後の研究の推進方策 |
まず第一に、第6巻の「消え去ったアルベルチーヌ」を編集または翻訳する場合、どのような編集が理想なのか、筆者はまだ明確な視点を有していない。ただ目下の課題は、3月23日のパリ第3大学でおこなった講演の際の質疑応答を整理して、論文として発表することである。また「プルーストと西洋美術」にかんする研究は、パリ滞在の利点を活かして、24年度も続行するつもりである。ウイーンの美術史博物館、ニューヨークのさまざまな美術館にも行き、プルーストが作品や書簡集で展開した美術批評の視点の本質をいくつかのレヴェルで整理し、把握するのが課題である。作品の舞台であるヴェネチアの再訪も視野に入れている。
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