研究概要 |
文学・芸術における異化作用という観点からモダニズムをエグゾティシズムとの関係で見直す本研究において、2011年度については、シュルレアリスムをアンチ・コロニアリズムの文脈で再検討するという作業を主におこなったが、前年度からの引き続きで,アンドレ・ブルトンと非西洋的な思考や表現との出会いについて考察し、とりわけホピ・インディアンから彼が受けた影響について論文にまとめた。西洋以外の文化に惹かれたプルトンは、大戦中に渡ったアメリカでホピ・インディアンの土地を実際に訪れ、そこで新たな思想や表現の可能性を感じ取ったが、その点を、彼にやはり影響を与えた空想社会主義者シャルル・フーリエとの関係も考慮に入れ、論じたわけで、そこから明らかになってきたのが、異化作用によってもたらされる独特のアナロジーの方法である。つまり異化作用は、距離を作りだすことで、逆に、通常は結びつかないもののあいだに関係性を見出す働きだとも考えられるのである。 シュルレアリストのひとりだったミシェル・レリスも、そうしたアナロジーの方法を日常生活のなかの何気ない出来事や事物に活用て執筆活動を続けた作家であり、その点に注目し、著作の翻訳をおこないつつ、レリスについての研究を継続している。また、レリスの場合もそうだが、一種の言語遊戯がアナロジーを誘発することがあり、その点で、レリスに影響を与えたレーモン・ルーセルについても、その独特の異化作用のメカニズムの解明をおこなっている。 また、シュルレアリスムにとっても重要なメディアであり、異化作用やそれに従うアナロジーの方法に適してるとも言える写真や映画については、写真史や映画史に基づきつつ、そして精神分析の方法との関係も視野に入れることで、その特性を明らかにしつつあり、それはまた、20世紀の思想や文化を見なおす作業にもつながっている。
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