今年度のカール・クラウス研究では、クラウスが自らさまざまな論考や演劇作品、詩を寄稿し、さらに編集、発刊した「FACKEL」を集中して読み、彼の時代批判と文芸批評の全体をよく理解することができた。特にクラウスの時代批判に注目して、彼が第一次世界大戦を批判することで書き上げた「人類最後の日々」に注目し、当時のマスメディア(大新聞)と戦争賛美者・戦争加担者の癒着関係を詳細に分析できたことは、今年度の研究成果である。クラウスが最も批判したのはウィーンの大新聞である「Neue Freie Presse(新自由新報)」であり、その戦争賛美に満ちているさまざまな記事を載せることでセンセーションを巻き起こし、販売部数を驚異的に増やしていったビジネス路線がクラウスの批評精神によってどのように表現されているかを、丹念に彼の作品と政治的エッセーを読み、その内容を分析することで理解することができた。この成果は23年度執筆予定の論文で発表する。クラウスを対象とする23年度の研究では、今年得られた知見を基軸に、その細部につき理解を深める予定である。 さらに今年度は、クラウスの生きた両次大戦間期が当時の文学者にどのように受容され、その作品にどのように表現されているかに注目して、後期の「ロスト・ジェネレーション」ともいうべきハイナー・ミュラーやミロ・ドールの批判精神を考察した。引き続き、彼らの戦争批判が文学作品で、どのように表現されているかを、23年度には精力的に研究する。
|