研究課題/領域番号 |
22520339
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
生田 眞人 京都産業大学, 外国語学部, 教授 (70006584)
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キーワード | カール・クラウス / 戦争批判 / マスメディア批判 / 平和主義 / オーストリア・啓蒙主義 / 『人類最後の日々』 / 『第三のワルプルギスの夜』 / 啓蒙文化運動 |
研究概要 |
今年度のカール・クラウスの研究では、前年度に集中して研究したクラウスの時代批判を踏まえ、彼の戦争批判とマスメディアへの批判を特に掘り下げて研究した。 その成果として、日本独文学会の機関誌「ドイツ文学」(国際版第10巻)に寄稿した論文で、クラウスはその初期・中期の作品の中で、すでに「戦争」を取り上げ、戦争を緻密に分析し、大作『人類最後の日々』及び『第3のワルプルギスの夜』に至るまで、首尾一貫してあらゆる形態の戦争を批判していることを跡づけ、彼の「平和主義者」の面目を論証した。 彼の戦争批判にあっては、当時の大新聞に代表されるマスメディアが扇情的に戦争を賛美する論調に陥っていることをクラウスは鋭く指摘し、この意味でも彼の戦争批判は現代に通じる価値を持っていることも論証づけた。このテーマに関しては、今年度はオーストリア・ウィーンに出張し、従来孤立した猜介固随の評論家と思われていたクラウスは文学論争にとどまらず、戦争批判に関しても、アルフレート・ケルなどの敵対者だけでなく、ベルトルト・ブレヒトなど盟友を見出し、プラハ、パリ、ベルリンへの「講演・朗読」の旅行で国外にまで広く影響を及ぼしたことを調査できたが、これも今年度の研究の成果であった。 さらに今年度はクラウスの批判精神の淵源の一部をなす「オーストリアの啓蒙主義」にも着目し、ドイツとオーストリアで18世紀に隆盛をみた「啓蒙文化運動」に着目して、その肯定的側面と否定的側面を「ドイツ・オーストリア精神史」の観点で考察し、その現代にまで通じる批判精神の発祥をさまざまな観点から考察できたことは当該研究の重要な成果である。この研究はさらに継続して行われる予定で、平成24年度の研究では「批判的啓蒙の精神」が21世紀の今日まで持続している、その文化の流れを跡づける予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
カール・クラウスの戦争批判とマスメディア批判は今年度までの研究で詳細に論証でき、当初目的とした研究は達成できた。しかし「研究の目的」の一つに挙げた総体的研究、つまりクラウスの言語観から出発して、彼の「政治・社会」と「文芸・文化」に対する批判については、この二項を有機的な相互関連の形でまとめるところまで研究は進渉していないので、当該研究は「やや遅れている」段階にある。
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今後の研究の推進方策 |
特に当時の「政治・社会」に対するクラウスの批判についてはこれまでの二年間の研究では不十分なところがあったので、この側面でのクラウスの批判精神を最終研究年度では集中して考察する予定である。この研究のため、クラウスがウィーンを中心とする祖国オーストリアを、客観的に冷静に批判できる端緒となった外国への講演旅行に注目し、彼がどのように外側から見たオーストリアの「政治・社会」を検証しているかを、今年度の考察の重要課題とする。具体的には、ベルリンとウィーンを比較する形でクラウスはドイツとオーストリアを比較検証しており、研究方法として今年度はクラウスのベルリンでの「講演・朗読活動」及び同地でのドイツの知識人との連帯を調査するため、ベルリンへの研究のための出張も考慮している。
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