研究概要 |
交付申請書の「研究の目的」に示したように、本研究は、虚構の創造と受容の基本的な認知的機構とその表現ジャンルによる差異を解明してきたこれまでの研究成果を基礎として、物語フレーム内での人物造形を規定する基本的な諸要因を、制作と享受の両面から分析し解明することを目的とする。本年度は,関連文献の収集と検討を進めることと並行して、研究協力者である森田直子東北大学情報科学研究科准教授とともに継続してきた「ナラティヴ・メディア研究会」を中心に研究活動を展開した。年度中に都合4回の研究会と1回の特別講演会を実施し、関連分野の専門家との共同研究活動を積極的に推進した。特に、フランスからコミック研究の第一人者であるティエリ・グルンステン氏を招聘して行った研究会と講演会においては、イメージ表現ジャンルにおける人物表現の特性について議論を深め、氏が提示する新しい分析概念の妥当性と射程について有益な知見を得た。この討議を含めて、本年度の数度の研究会や文献調査において、感覚・印象に直接与えられるイメージと言説化される「物語」との関係、およびそこにおける「物語」概念の内実の再検討が課題として浮上した。グルンステンとの討議に先立って発表した論文(別記)においては、両者を分離する一般的な見方の問題性を指摘し、とりわけ「人物」のイメージが物語表象の成立に直接的に関与することを、この分野の原点であるテプフェールの理論に言及しながら明らかにした。この考察は、本研究の今後の展開の出発点となるものである。
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