研究概要 |
本研究の主要な目的は、物語ジャンルにおける「人物」(キャラクター)表現の特徴を、特にメディアによる制約に着目しつつ、明らかにすることにあり、その際、現代の物語表現についてしばしば言われる「キャラクター優位」論の妥当性について検討することを一課題としている。本年度は、近年「メディア芸術」とも称されるサブ・カルチャー諸ジャンルにおけるキャラクターの扱われ方を、比較的な観点のもとで調査した。そこで明らかになったことは、いわゆる「キャラ/キャラクター」の区別(伊藤剛)が分析装置として一定の有効性を持つ一方、物語的文脈から完全に切り離された「キャラ」を想定することは妥当ではなく、実際、近年のサブ・カル諸ジャンルにおいては、むしろ物語性を前掲化させたキャラクターが広く受容される現象が見られるということである。本研究の理論的関心からすると、「キャラ」受容の問題とは、筋(行為)の概念的認識以前に、受容者が言わば直接的に物語表象に自らをゆだねる段階、つまり物語経験の基層のあり様を解明することにほかならない。これはカッシーラーが神話的意識あるいはそれと通底する表情知覚の機制として論じたものに近いと思われる。本年度の研究においては、物語的人物がそのようなものとして受け取られる可能性の核にあるものを、こうした理論的角度から探求する見通しを得た。なお本年度は,引き続き関連文献の収集と検討を進めるとともに、研究協力者である森田直子東北大学情報科学研究科准教授とともに継続してきた「ナラティヴ・メディア研究会」の活動を継続し、『ナラティヴ・メディア研究』第3号を刊行した。
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