本年度は、先ず、夏期(2012年8月14日)には阜陽博物館に再び赴いた。原簡の最終確認を行う予定であったが、原簡が脱水、漂白処理のため、荊州博物館に運ばれたまま、戻されるのが未定であったため、同館の関係者の協力を得て荊州博物館で処理をはじめる前に、これまでガラス管に封入された原簡を取り出した姿で撮影された原簡の写真を入手することができた。これらの写真をもとに、実物では確認できなかった部分などを把握することとなった。なによりも阜陽『蒼頡篇』に関する最新の実態を確認したことが今回の最大の収穫となった。 秋期(2012年11月17~19日)武漢大学において、開催された武漢大學簡帛研究中心・北京大學出土文獻研究所共同開催の「中國簡帛學國際論壇2012秦簡牘研究」に招聘され、「阜陽漢簡『蒼頡篇』的現状及「政勝誤亂」之卑見」というタイトルのもとで報告を行った。本報告は、阜陽漢簡『蒼頡篇』の最新状況、及びそれに関わる先学達のこれまでの論考の不備や誤りなどについて私見、殊に法家思想の背景のある文言が確認されることを述べたものである。この折、参加者諸氏の阜陽漢簡『蒼頡篇』に関しての見解や、北京大学所蔵『蒼頡篇』に関する最新情報を聴取することが出来た。 本年度は、上記の国際シンポジウム参加のほかに、これまで海外調査で得られた資料情報をもとに、現在確認し得た阜陽漢簡『蒼頡篇』の文字を逐字秦篆等との比較を進め、また水泉子簡、及び北京大学所蔵の『蒼頡篇』の異文についても分析、攷究を進めた。これらに基づき、文献学的、文字学的研究を行い、最終的な報告書をとりまとめ、研究の基盤に見据えられるべきデジタル写真資料を学会に提供し、また新知見の一部については、研究論文としても公表する予定である。
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