本研究は、ホイットマンやイプセン、トルストイなど西洋文学の影響を強く受けた有島武郎が、韓国近代文学の成立に深くかかわっていた事実を明らかにすることによって日本近代文学の「媒介者」としての顔を浮き彫りにすることが目的である。研究最終年度にあたる本年度においては、2年間にわたって行った基礎研究の成果をまとめると同時に、その過程で浮き彫りにされた問題点を解決するため新たに資料収集とその解読を行った。さらに今年度を含め3年間で行った研究内容を総括し、その報告書をまとめた。具体的な内容は以下のとおりである。 1. 具体的な内容 まず、初年度及び2年目に行った基礎研究をまとめて研究論文を執筆した。その主な内容は日本を経由して韓国に伝わった「恋愛」の歴史的な変遷を踏まえ、日本の「恋愛」観念が韓国的「恋愛」観念へと変わっていく実情を、有島武郎の「石にひしがれた雑草」(1918)と廉想渉の「除夜」(1922)を手掛かりとして明らかにした。次に、論文を執筆する過程において浮き彫りにされた問題点を解決するために新羅大学校と釜山大学校、高麗大学校、ソウル大学校、国立中央図書館にて資料収集を行うとともに、韓国における有島武郎研究者と意見交換を行った。また、収集した資料を、先行研究を照らしあいながら解読及び分析を行った。この作業によって、これまで不明とされていた事実関係を明らかにすることができた。 最後に、3年間にわたって行ってきた研究成果をまとめて報告書を作成した。 2.意義 以上、本年度を含め3年間にわたって行った資料収集と閲覧、フィールド・ワーク、研究者との意見交換を通じて、これまで日本と韓国の有島武郎研究者が指摘できなかった日本文学の新たな可能性を浮き彫りにすることができた。このような研究の機会を与えてくださった科学研究費助成金に感謝いたします。
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