本研究は、江戸中期頃から本格的に作られていった日本漢文体笑話本について、まず、その全体像を見るため、版本調査を行った。ついで、その調査に基づき、作者、作品年代、所蔵状況、版本状況、出版に至る経緯などの一覧表を作成した。 その後、調査した漢文笑話集30数種の作品集の中から、漢文笑話本の嚆矢である『訳準開口新語』(『未翻刻江戸小咄本十一集』、『噺本大系第20』、および『日本漢文小説叢刊』所収書)を選び、作品訓読を行い、個々の笑話100話について、先行する江戸小咄・先行する中国笑話・中国由来の典故・日本由来の典故・その後の日本小咄への影響に関する一覧表作った。また、作品の特徴、中国笑話とのかかわり、その後の漢文笑話への影響などについて分析し、これらの調査・考察結果を、論文「漢文笑話『訳準開口新語』について」(『富山大学人文学部紀要』第53号)として発表した。 一方、『善謔随訳』『〓譚』などの笑話本についても考察を行い、「遊廓案内とその物語『風月機関と明清文学』」(『東方』356)の中で、笑話における江戸の遊廓文化の描写という側面から報告した。 また、越中高岡の漢学者による笑話本『〓談(譚)』を、作品の特徴、作品成立の背景の面から考察し、「高岡の漢学者・寺崎脇洲-その笑話「〓談」の世界」(『富山大学人文学部紀要』第54号掲載予定)としてまとめた。「〓談」に関しては、調査の中で草稿本も発見し、刊本所収以外の作品についても考察することが叶った。また、「〓談」の著者寺崎には、漢文笑話集「〓談」以外に漢文説話集・脇洲餘珠」(笑いのエッセンスを含む)が存在することを確認し、地方における漢文受容の実態を具体的に考察しているところであり、この成果は次年度以降に発表する予定である。
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