本研究「モダニズム芸術における解釈学的戦略と救済の論理」の目標は、20世紀初頭以降のヨーロッパにおけるモダニズム芸術が単なる美学的課題に終始していたのではなく、科学的合理主義の影響下で揺らぎはじめた伝統的宗教に代わって人間の霊性救済を最終目標とする精神運動であり、この論理は20世紀が終焉した現在の時点においても力をもって存続していることを検証することにある。平成22年度においては、モダニズム芸術におけるエソテリシズムの精神性がユダヤ教解釈学と神智学を中心に機能していることをH・ブルームの修正主義批評(ユダヤ教神秘主義カバラー)とモンドリアン(神智学)を中心に整理するとともに、その関係資料の収集と分析を行った。分析の過程において、個別的なものと普遍的なものとの均衡を追求しながら普遍的なものを個別的なものとして表現しようとするモンドリアンの神智学的世界には、シュルレアリスムが再発見した意識と無意識との美学的統合と合わせて、16世紀に最盛期を迎える錬金術的思考法が組み込まれていることが明らかになった。この思考法は、「内なる響き」という視点から抽象絵画運動を推進したカンディンスキーにおいて内なるメルクリウスと外なるメルクリウスとの共鳴というかたちで反映していることにも繋がっており、来年度に向けてより包括的な調査と分析が必要であるという結論を得た。また、平成22年7月にロンドン大学図書館(連合王国)、同11月に国立博物館(チェコ)及び美術史美術館(オーストリア)において日本では入手できない資料を調査・閲覧した。
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