研究課題/領域番号 |
22520355
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
吉村 正和 名古屋大学, 国際言語文化研究科, 名誉教授 (10033408)
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キーワード | モダニズム / 解釈学 / エソテリシズム / 錬金術 / シュルレアリスム |
研究概要 |
本研究「モダニズム芸術における解釈学的戦略と救済の論理」の目的は、モダニズム芸術における解釈学的戦略には宗教的救済の論理が支配していることを検証することにある。解釈学的戦略とは、言語自体の内在的な論理を志向するものであり、言語の原初的意味とその神学的役割を明らかにするという意味において宗教的戦略である。この戦略はモダニズム芸術にも適用されているのではないかという問題提起をしたうえで研究を進めており、平成23年度においては、カバラーと神智学に並んで西洋エソテリシズムの3本柱を形成する「錬金術」に焦点を当てて、モダニズム芸術との関連性について検証を行った。モダニズム芸術についてはまず、カンディンスキーを昨年度に継続するかたちで調査した。精神的・内的なものをいかにして色彩と形態によって表現するかという課題を解く鍵となったのは、精神的なものは物質的なものの無限に純粋化されたものであるという発想であり、物質と精神の間の境界を崩壊させて両者の連続性を強調する姿勢であること、さらに、20世紀初頭に始まるダダ運動を受けて登場したシュルレアリスムにおいても、夢と現実という本来は重なることのない二つの領域が「絶対的な現実」すなわち「超現実」に融解するというように、対立する二元性の止揚を主張する点においてモダニズム芸術とオカルト思想には親縁性があることを確認した。このような視点を含めて、平成23年度における研究成果(中間報告)を、平成24年1月には『図説錬金術』(単著、河出書房新社、1~119頁)を刊行し、公表することができた。平成23年5月9日~20日にはロンドンに滞在して、大英図書館、ロンドン大学の中央図書館、科学図書館、ウォーバーグ研究所図書館、ウェルカム図書館などを中心に、錬金術とモダニズム芸術関係の資料調査を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
抽象絵画の場合には、カンディンスキーやモンドリアンにその美学的な根拠を提供したのは、宗教と科学の止揚を唱える神智学の体系であった。平成23年度において主たる調査対象としたのは、同じように物質と霊性の二元性の止揚を説く錬金術であり、<変成><抽出><完成><生命霊気>という4つのキーワードを中心にして錬金術の体系とその影響について考察し、その成果を『図説錬金術』(単著、平成24年1月、河出書房新社、1~119頁)にまとめて公表した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、19世紀後半から20世紀初頭に登場したモダニズム芸術運動は伝統宗教に替わって精神的な枯渇状態からの精神的救済を目指す擬似宗教の一種であり、個人の解放と完成を最終目標に掲げる西洋エソテリシズムと連動する代替宗教であったことを明らかにしようとするものである。西洋エソテリシズムの3本柱のうち神智学と錬金術とモダニズム芸術との関連性については平成22年度及び23年度の研究において検証しており、平成24年度では残るもう1つの柱である<魔術>(ユダヤ教神秘主義カバラーを含む)とモダニズム芸術との関係について考察を進める。平成23年度までの研究成果はすでに2冊の単著にまとめており、平成24年度(最終年度)の研究成果についても、研究期間の終了前に新たに単著(書籍)のかたちで公表する予定である。
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