「20世紀におけるハーンの文学的遺産の継承」という観点を深めるため、22年度に、『耳なし芳一』と、アルトーが(仏訳を土台に)『耳なし芳一』を自由に翻案した作品『哀れな楽師の驚異の冒険』との詳細な比較を行い、23年度には、この結果を踏まえた実証成果を、ひとつは論文という形で、もうひとつは学会発表という形で明らかにした。 その際の論文とは、平成23年6月30日に新曜社から刊行した単著『「外部」遭遇文学論』の第二章に組み込む形で記したものを指している。タイトルは「『耳なし芳一』の物語を巡って―ハーン、アルトー、ゴッホ」というものであり、そこにおいて、アルトーが『耳なし芳一』をどのように翻案したかを詳しく論じている点が22年度からの実証研究の成果である。後者の学会発表とは、平成23年11月26日に日本比較文学会第32回大会中部大会において、招待パネラーとして「〈異界〉を巡る考察―ハーン、アルトー、ベケット」という口頭発表を行ったことを指している。そこでは、これまでの研究成果から明らかにすることができた「異界への視線」が、アルトーとほぼ同世代のベケットにもあるのではないかということを中心に論じた。 これらに引き続き、今年度は、まず、アルトーが、いわゆるハーン体験を経た後、どのようにアルトー独自の世界を構築して行ったかという、アルトーのモノグラフ的な観点からの研究、とりわけアルトーのゴッホ読解という観点からの研究を進めると同時に、ハーンからアルトーに継承された「異界への視線」の本質をより明らかにするため、ほぼ同時代人であるフロイト的視点を導入した。これらの成果として、平成24年12月15日、富山大学主催のシンポジウム「小泉八雲の新しい地平―最近のラフカディオ・ハーン研究をめぐって」において、招待パネラーとして「〈異界〉を巡る考察―ハーン、アルトー、フロイト」と題する口頭発表を行った。
|