研究概要 |
5月に発行した論文では、オーストラリアのアボリジニ作家Alexis Wrightの代表作におけるオーストラリアの再構築というテーマを論じた。6月にキプロスで開催された国際学会The 15^<th> Triennial ACLALS Conferenceで行った研究発表"Hauora Maori : Indigenous Language Education, Environment and the Production of Literature"では、ニュージーランドにおける先住民文化の再構築の諸相において鍵となる概念であるマオリの'hauora'(「健康」)という問題に焦点をあて、先住民言語教育、環境問題、土地権問題、先住民文学とメディアの形成といったポストコロニアル文化形成の重要な局面を論じた。1980年代の医療の「脱植民地化」を支える理念は、同時期の先住民言語教育運動や土地権運動と無関係でない。この時代の社会的な動きが、同時代から1990年代のマオリ文学にどのように反映されているかを論じた。マオリ語で書かれた文献や先住民言語による学校教育現場の実地調査に基づく本研究発表は、従来の英語圏文学文化研究の中で扱われなかった側面に光をあてている。8月にインドで開催された国際学会Chotro 3(共通テーマLocal Knowledge, Global Translations : Imagination and the Images of Indigenous Communities in the Twenty-First Century)での研究発表("Negotiation between the Local and the Global in Literary Production in Oceania : Should It Be Translated?")では、マルチ・リンガル(カルチュラル)なテクストの中での文化的翻訳の問題や英語と先住民/ローカル言語の間での翻訳や相互作用の問題を論じた。8月から9月にかけての調査旅行では、次の2つの調査を行った。1.ロンドンのマオリ・コミュニティの意識調査アンケートを行った。ロンドン・マオリ・クラブ(Ngati Ranana)と幼児教育施設(Kohanga Reo o Ranana)は、マオリのパフォーミング・アートやマオリ語教育を通してロンドン在住のマオリが共同体を形成する拠り所となっており、グローバルな場でのローカルな文化の展開をみせている。2.ニュージーランドでは、マオリ劇作家や南太平洋移民作家、演劇ディレクターなどにインタビューを行い、劇団所蔵のアーカイブその他を訪ねて、南太平洋演劇の舞台記録やマオリ/南太平洋関係の映画について、最新の資料の収集、調査を行った。
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