5月に出版した論文「オセアニアにおける演劇とコミュニティ:ニュージーランド、フィジー、ヴァヌアツを中心に」では、前年度の現地調査に基づき、ニュージーランドのマオリ・南太平洋系作家による演劇、ヴァヌアツのWan Smolbag Theatreの活動などを論じた。本年度はミクロネシアのキリバス共和国(タラワ島)において、環境問題を扱う学童による演劇活動や社会問題を扱う障害者の演劇コミュニティTe Toa Matoaの活動の調査、また現在キリバス共和国の一部となっているクリスマス島で行われたイギリスの核実験に関する文献調査を行った。ニュージーランドにおいては、サモア・ニウエ・クック諸島系、アジア系劇作家の活動を視察し、オークランドのダンス・カンパニーMAUのサモア人演出家 Lemi Ponifasioなどにインタビューを行った。また、前年度の現地調査で時間切れとなったパプア・ニューギニアの独立前後の演劇に関する資料の予備調査(UPNGの図書館との通信を通して)を行った。出版物としては、前年度にオーストラリアのクィーンズランド州北西部で行った現地調査に基づき、中国系アボリジニー作家 Alexis Wrightの長編小説 Carpentaria を日本人の視点から(東日本大震災と福島原発事故、六ヶ所村、オーストラリアでのウラン鉱山開発をめぐる日本とオーストラリア間の議論、オーストラリアと日本の核文学、災害文学などとの関わりにおいて)論じる招聘論文を執筆、Giramondo社から出版予定である。日本文化をマオリの子供たちに紹介するマオリ語のテキスト(3言語版CD付属)を完成、印刷発行し、副読本として扱うための教授用資料をそえて、マオリ語トータルイマージョンの幼稚園、小学校、中等教育機関や大学、刑務所のマオリ更生施設などに(訪問あるいは送付により)配布し、意見やフィードバックを求めた。
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