本年度は、司馬相如をめぐる伝承について、本研究によるこれまでの学会発表をふまえ、2本の学術論文を刊行した。 司馬相如の人生は、前漢武帝期に普遍的な「戦国の子」の挫折という型にあてはまりつつも、庶民の欲求をすべて実現した幸福な男として語られる。最期には封禅という国の大事のきっかけを作り、吃言や消渇といった身体的な傷が、その特別な力を証す聖痕となる。こうした点を、卓文君故事と戦国游子伝説の比較や、相如と何らかの共通点を持つ韓非・張良・東方朔との比較によって論じた。 本年度はさらに、研究全体の総括として、漢賦の伝承と物語的伝承との関連について考察し、国外の学会で発表した。前漢の辞賦は、現存数は少ないが、完全な形で伝わるものが比較的多く、一方後漢の辞賦は、断片の形で数多く伝わる。前漢の辞賦は作者の伝説と不可分であったため、選ばれた少数の作品が史書に丸ごと採録されたのに対し、後漢には作品を残す意識と手段があり、隋唐まで残って類書にしばしば節引されたため、文集の散逸によって断片化したのである。発表原稿は複数の委員による査読を経て、2014年に刊行される論文集に掲載される。 このほか、唐代の律賦における漢賦にまつわる故事のあり方や、前漢の王褒の楚辞作品に見られる「九歌」と屈原との結びつきについて発表した。これらは、本研究の進展で得た知見を、より広い対象に適用したものである。また、日本中国学会次世代シンポジウムの依頼を受け、宋玉をめぐる問題について、これまでの研究に基づいて発言した。 研究協力者として奈良女子大学大学院の西川ゆみ・横山きのみの協力を得て、「国内辞賦研究文献目録(稿)」を作成した。宋玉・司馬相如に限定せず、広く楚辞を含めた辞賦について、1945年以降に発表された論文と、明治以降に発行された図書とを採録しており、わが国における辞賦研究の動向を一覧することができる。
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