当初の計画通り、最終年度となる本年度は、昨年度までに収集した資料を分析して、その成果を発表することを中心に行った。中でも特に力を注いだのが、盛唐の詩人王維と裴迪の唱和集『輞川集』の分析である。それにより、著名な詩集であるため先行文献が極めて多い『輞川集』であるが、それら先行研究のほとんどが、『輞川集』が唱和集であることを記しながら、唱和の実態については無頓着であり、単純に両者の作品を比較するのみで、唱和集として読んできていないことを明らかにすることができた。 それを踏まえて、まず『輞川集』をもう一度唱和の実態という点から改めて見直し、当時の状況に関しては不明とするほかはないが、後の時代には王維の原唱に裴迪が和した唱和集と理解されていたことを明らかにした。その上で、後の時代の人々から見た『輞川集』を対象として、王維の原唱に対して裴迪がどのような工夫を行っているかという観点から、新たに『輞川集』を唱和集として読み直すことを試みた。これにより、従来の研究で王維と単純に比較されて稚拙と評価されてきた裴迪の詩が、原唱に対して自分なりの工夫を試みようという努力に満ちたものであり、さらには、その作品が王維の詩に対しても影響を与えているということが読み取れることを論じた。 以上のことについて、中国中世文学会において口頭発表した上で、その際に寄せられた質問・意見も取り入れつつ、一五〇枚を超える論文にまとめ、『中国文史論叢』誌上に発表した。
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