本年度は、ウガンダのトロロ県でメモリーブックの調査を行った。詳しい調査内容と得られた知見は以下のとおり。 1.さらに多くのメモリーブックを分析した。書き手は、HIV/エイズの活動を行って自信を深めると同時に、死にたいする強い不安も感じるという、葛藤する状況をメモリーブックに記していることがわかった。メモリーブックが、よくあるエンパワーメントの語り以上のものを記しているという証左である。 2.書き手にインタビューを行った。書き手のなかには、英語が十分に書けないため現地語で口述し、支援者に英訳してもらっている人もいた。現地語なら自力で書けるにもかかわらず、あえて支援者の手を借りて英語で書くことを選択している人もいた。英語は外の世界とつながる道具である。子どもに向けて内密な内容を書くはずのメモリーブックが、開かれた意識のなかで書かれていることが分かる。 3.支援者にインタビューを行った。メモリーブックのトレーナーの資格を持つ人は、英訳以上の支援を行っていた。質問をして書く内容を引き出したり、書く内容をアドバイスしたりしていた。悪口を書くと子どもの心にずっと残ると説明し、記述を止めさせることもあった。メモリーブックを分析するときに、支援者の存在も考慮すべきだと思われる。 4.書き手グループのリーダーにインタビューを行った。書き手は「検査後クラブ」というエイズの活動グループをつうじて執筆している。クラブの成り立ちは、クラブによって異なる。現在、第一世代が亡くなりつつあり、世代交代が行われている。クラブの歴史を書き残す必要があると思われる。
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